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        東京理科大学理学部第一部数学科 教授 安部直人
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2012年11月12日 09時56分
高校数学Aの背理法証明と直接証明の比較
 「√2 が無理数」の直接証明1:
「自然数 a,b につき、
(1) aa と 2bb の素因数の個数は偶数と奇数で異なる(:正しい)
から
(2) aa≠2bb (が導かれる:正しい)、
よって
(3) √2≠a/b (が導かれる:正しい)。」

 ここの主張は、仮定の下、(1)が数学的に正しいので、それから(論理規則の)推論により導かれている(2)(3)もすべて数学的に正しく、吟味すれば理解可能です。このように、直接証明では、「導かれる=正しい」となっています。


「√2 が無理数」の背理法証明:
(5) 「√2 が有理数 (背理法の仮定:正しくない)
と仮定すると、
(6) 1 以外に公約数をもたない
自然数 a,b につき、
(8) √2=a/b
と表される(ことが導かれる:正しくない)。
これより
√2b=a (ことが導かれる:正しくない)
両辺を2乗すると
(9) 2b^2=a^2 (ことが導かれる:正しくない)
  ・・・・・・
以上のことから、
(10) a,b はともに偶数となり(ことが導かれる:正しくない)、
(11) a,b は 2 を公約数としてもつ(ことが導かれる:正しくない)
よって、
(12) (11)かつ(6)は矛盾である(ことが導かれる:正しくない)
したがって、
(13) √2 が有理数ではない(背理法の原理により:正しい)。
すなわち、
(14) √2 は無理数である(ことが導かれる:正しい)。」

 この証明内の中間結果の正しさを、直接証明の正しい中間結果と比較すれば、
(3)(2)が正しいので、(8)(9)は正しくない。(12)は論理的に正しくない。
 更に、(12)以前の他の中間結果も「正しくない仮定から推論により導かれた」だけで、「数学的内容は正しくない」ことが解ります。つまり、直接証明の場合と異なり、背理法の証明の中で背理法の仮定から矛盾までの中間結果は、一般に「導かれる≠正しい」ので、本来は単に「(推論により)導かれる」という構文論的意味しかありません。正しくない主張は誰も(著者や教える側も)理解納得(これは意味論)できません。

 なお、背理法証明中の

「(9)がでたところで、(1)に気付けば(2)で矛盾がでて(13)に飛べます。」

これで、背理法の証明は((6)も使わずに)半分以下ですみます。
つまり、
「教科書に載っている背理法は、背理法の中でも大分効率が悪い」
と思えます。

 更に極端な話ですが、
「直接証明を知っていれば、背理法の仮定(5)のあと、
『一方』と書き、直接証明で(3)を導けば、(8)と矛盾するので(13)に飛べます。」

これで、背理法の証明は((6)も使わずに)更に簡潔になります。
このように、直接証明はいつでも、簡単に背理法証明に使えます。
かといって、直接証明ができる当たり前の事実にわざわざ難解な
背理法をもちいるのも?

 逆に、どんな定理でも証明が与えられれば、(効率の悪い)背理法で良いならば、いくらでも長くして「Abe=Obama」 を導き矛盾という(独創的?)な別証を創れます。
こういう答案の採点は勘弁してほしいものです。

 また、直接証明1は、素因数分解の情報のうち、「素因数の個数」しか使っていませんが、それでも 2 の替わりに素数でも通用します。更に、素因数分解をフルに使えば、任意の自然数 c に関して、「√c が無理数」であるための必要十分条件「c が平方数でない」も得られます。更に、自然数の正累乗根の無理数性についても一般化が得られます。すべて、簡単な非背理法の証明が可能です。

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